研究内容


当研究室では、「微生物のちからを借りて、環境に優しい新技術を構築・開発する」ということを目指して、様々なテーマに取り組んでいます。



① 海藻成分を利活用した微生物によるバイオプラスチック合成


微生物の中には、栄養飢餓状態になると細胞内にバイオプラスチックであるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を蓄積するものが存在していることが90年程前から知られています。このバイオプラスチックを合成する微生物は、植物由来の糖や植物油をエサとして生育しますので、本方法では、プラスチックの原料が従来のような有限な石油ではなく、植物由来の豊富に存在する生物資源を原料とすることができます(図1)。また、微生物が合成するPHAは、高い生分解性を有していますので、使用後は環境中の微生物に分解され、水と二酸化炭素まで完全に分解されることが確認されています。分解によって生じた水と二酸化炭素は再び原料となる植物の生育に利用されるため、二酸化炭素放出量の低い炭素循環型プラスチック合成法として注目されています。さらに、環境中で完全に分解できる生分解性プラスチックの応用は、近年懸念されている環境中に蓄積し、生態系に悪影響を与えているマイクロプラスチック問題の打開策としても期待されています。


図1

図1 PHAの合成と分解がつくりだす炭素循環サイクル


これまで多くの研究は、植物を原料としたバイオプラスチックの微生物合成を目指しているものでしたが、我々は、三陸の海で豊富に得られる食用以外の海藻類や加工後の廃棄海藻部分を原料としたバイオプラスチックの微生物合成を目指しており、海藻成分を効率よくバイオプラスチック合成に利用できる新たな微生物を複数株見出しました(図2)(1-3)。実用化を考えるには、生産量の向上や原料の処理方法の検討など、解決しなければならない課題が山積みですが、海に囲まれた日本に豊富に存在するバイオマスである海藻を利用して、三陸地域に貢献できる新たなものづくり技術へ展開できればと考えています。


図2

図2 当研究室で発見したPHA合成菌のうちの一例




② 廃不凍液成分を原料とした微生物酵素による有用有機酸合成


有害物質による環境汚染問題もまた重要な課題ですが、自動車のロングライフクーラント(LLC)や不凍液の廃棄による環境汚染については、これまであまり重要視されてきていませんでした。しかし、自動車の大量消費や暖房器具の普及にともない、LLCや不凍液の廃棄量は、日本では年間約42万トンにものぼり、その大半が希釈されるだけで環境中に放流されているといわれています。我々は、処理が課題となっている廃LLCや不凍液の主成分であるエチレングリコールを、環境浄化の観点から安全に処理するのみでなく、微生物酵素を用いることで安全で高生産な有用有機酸の生産に活用することを目指しています(図3)。目的の酵素反応を進めるために最適な酵素を微生物より見出し、現在は遺伝子組換え技術等を利用して、酵素の能力を強化させています(4-7)。また、合成のターゲットとしている有用有機酸類は、工業的には主に化学合成によって生産されていますが、化学合成法では高温高圧条件下での反応や、酸類のような有害物質が必要であるため、環境負荷や酸の中和処理等のためのコストが問題視されています。我々が目指す酵素を利用した反応が可能となれば、これらの諸問題も解決できる可能性があります。


図3

図3 当研究室で発見した微生物酵素を機能改良し、産業廃棄物を原料とした有用有機酸類合成を目指す




③ 生分解性プラスチックの微生物による分解メカニズムを明らかに


生分解性プラスチック(生プラ)の利用は、環境中への蓄積と生態系への悪影響が懸念されているマイクロプラスチック問題の打開策として非常に期待されています。また、生プラがどのように分解されるかは、使用後の生プラが環境中へ流出した際の影響の評価や、生プラ使用時の分解速度制御などの観点から非常に重要です。しかし、現在、全ての生プラの分解様式が解明されてはいません。我々は、未解明な微生物による生プラ分解機構の解明を目指し、新たな分解菌の探索や分解酵素の性質解明についても精力的に挑戦しています(図4)(8)。


図4

図4 目的の微生物探索の流れ



以上の研究テーマの他にも、新規な性質を有する微生物酵素を探索し、その特性を活かした新たな酵素応用技術の開発に関わる研究も行っています。ご興味のある方は、是非お越しください。



[参考文献]

1. M. Yamada et al., Fisheries Science, 84, 405-412 (2018)

2. H. Moriya et al., Frontiers in Bioengineering and Biotechnology, 8, https://doi.org/10.3389/fbioe.2020.00974 (2020)

3. 山田美和ら (特願2018-159148)

4. M. Yamada et al., Journal of Molecular Catalysis B: Enzymatic, 105, 41-48 (2014)

5. M. Yamada et al., Journal of Bioscience and Bioengineering, 119, 410-415 (2015)

6. M. Yamada and K. Isobe, OMICS International, Fermentation Technology, 4, 1-2 (2015)

7. K. Matsumura et al., Journal of Bioscience and Bioengineering, 128, 13-21 (2019)

8. Y. Sasanami et al., Polymer Degradation and Stability, 197, 109868 (2022)



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